おでん
おでんを買った。
「汁はなしでお願いします」とコンビニ店員に伝える。
「汁はなしでよろしかったですか?」
表情からして、汁なしでおでんを買っていく人間は少数派なのだろう。
「はい、汁なしでお願いします」
「はい、汁なしですね」
隣のレジにいたコンビニ店員が、コンビニ店員に話しかける。
「汁忘れてるよ」
「いや、汁なしでいいらしいんすよ」
「お待たせしました。汁なしでよろしかったですか?」
「はい、汁なしで大丈夫です」
流石にそこまで何度も汁についての会話が為されると、汁なしでよかったのか一度考えてしまう。
「家で汁捨てるの面倒なんすよね笑」などと言っておけば良かったのかもしれない、と今思う。
勿論、コンビニの店員さんは間違った行動はしていない。
おれも間違ってはいない。
その場にいる全員が間違っていない。
「汁なしでよろしかったですか?」
と問われれば
「はい、汁なしで大丈夫です」
と答えるだけだ。
当然の受け答えが行われ、誰も間違っていない、おでんの汁について考えている時間が続いているだけだ。
家に帰って、おでんを食べ進める。
卵の黄身を汁につけて食べたかったな、と今思っている。
小さなことだが、こういうことの繰り返しだ。